どこで解決を?

 労働問題を解決できるところはいろいろありますが、どのようなお客様でも・どのような労働問題でも・どのような機関・団体・士業への依頼でも「ここでこのように手続すればいいです」といえるところはありません。どのようなところでの手続にも一長一短があります。

 自分の労働問題にはどのようなところで行われるどのような手続が向いているのか考えながら読み進んでみてください。

いろいろな手続

 このページで紹介・案内させていただくのは下の表にあげたところでの手続です。

  • 直接交渉(個人)
  • 直接交渉(団体)
  • 労働局長による助言・指導(・勧告)
  • 労働局によるあっせん
  • 労働委員会によるあっせん
  • 雇用環境・均等部(室)による調停
  • 社労士会ADRによるあっせん
  • 民事調停
  • 支払督促
  • 少額訴訟
  • 通常訴訟(簡裁)
  • 労働審判
  • 通常訴訟(地裁・高裁・最高裁)
  • その他の手続

 以下それぞれのところでの手続について、概要・主な良い点・主な良くない点を説明します。

 様々な選択ができるように一通り目を通していただきたいと思います。

直接交渉(個人)

 これはどこかの機関で実施される手続ではありませんが、解決方法としては可能ですのであげました。

主な良いと思われる点

  1. 時間・金銭的負担が少ないです

1.どこかの機関に手続を申し立てたり訴えたりしませんので、思い立った時に交渉し始めることができます。利用するための費用もかかりません。

主な良くないと思われる点

  1. 話がまとまりづらいです
  2. 相手方と直接交渉しなければいけません

1.どこかの機関で行う手続においては、中立の第三者が間に入り手続が行われます。直接交渉では、誰かがお互いの言い分を聞いてくれたり、お互いが納得できそうな和解案を提示してくれるわけではないので、どうしても感情的なしこりをほぐしたり、お互いに歩み寄ったりといったことが難しく、お互いの要望希望がそれほど離れていなくても話がまとまりづらいです。

2.上の1と同様に、どこかの機関で行う手続においては、中立の第三者が間に入り手続が行われます。当事者同士が顔を合わすことはあっても(裁判外紛争解決手続ですと顔も合わせません)直接交渉することは、双方が望まない限りありません。双方代理を立てていない場合においては直接交渉はどちらかが感情的になってしまうおそれがあります。

直接交渉(団体)

 これもどこかの機関で実施される手続ではありませんが、解決方法としては可能ですのであげました。

主な良いと思われる点

  1. 使用者は交渉に応ずるだけでなく、誠実に交渉する義務があります

1.使用者のところに団体で出向いて行って「今すぐ交渉だ!」のようなことはできませんが、常識的に考えて、ある程度の期間を空けて平穏に交渉を申し込んだ場合には、使用者は拒否することができません(時間場所人数等の調整くらいのことはできますが)。

 また、使用者は誠実に交渉に応じないと「不当労働行為の禁止」という労働組合法違反に問われる場合があります。ただし、「誠実に交渉」すればよいのであって、要求を認めなければいけないわけではありません。

主な良くないと思われる点

  1. 相手方と直接交渉しなければいけません
  2. 団体交渉は文字通り、団体で交渉するだけです
  3. 労働組合に加入しないとできません

1.どこかの機関で行う手続においては、中立の第三者が間に入り手続が行われますので、当事者同士が顔を合わすことはあっても(裁判外紛争解決手続ですと顔も合わせません)直接交渉することは、双方が望まない限りありません。

2.団体交渉に、解決内容についての何かしらの特別な権限や解決についての強制力等があるわけではありません。

3.「団体交渉権」は労働組合が持つ権利ですので、団体交渉する際は、原則当事者は労働組合の加入員である必要があります。

労働局長による助言・指導(・勧告)

 都道府県労働局長がお互いの事情を聞き、相手方に対して、お互いの間にある労働問題の問題点を指摘して、解決の方向性を示してくれるというものです。実際に事情を聞き助言・指導(・勧告)するのは、都道府県労働局長本人ではなく、職員ですが。

 助言は口頭・文書、指導は文書で行われます。助言より指導のほうが若干ニュアンスとしては強いものと考えられています。

 均等法・パートタイム労働法・育介法に関する労働問題では助言・指導に加え勧告もしてくれます。

 個別労働関係紛争ではない労働問題では利用・活用できません。

主な良いと思われる点

  1. 無料です

1.金銭負担はありません。

主な良くないと思われる点

  1. 強制力がありません

1.使用者は助言・指導(・勧告)に従わなくてはいけないわけではありません。

ADR(行政型・民間型)(共通)

 ※ADRの手続がどのように進行するかについては、「6.勝つための基礎知識2」で詳しく説明させていただきますのでご覧ください。

 当事者それぞれの意見を別々に聞いて、話し合いで合意を形成し、適切な和解案を提案することにより解決を図ります。

 労働委員会によるあっせん以外では、集団的労使関係紛争は取り扱えません。

 すでに労働審判及び通常訴訟で争っている最中である・争った後である等の場合は受付・開催されません。

 時効の中断に関しては、あっせん・調停が打ち切られた場合に、打ち切りの通知を受けてから30日以内に訴えを提起すれば、あっせん・調停を申し立てた時に訴えの提起があったものとみなされます(あっせん・調停を申し立てた時から時効が中断しているとみなされるということ)。

 紛争調整委員会は、「関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができ」ます。

 手続が進行している間にあっせん委員・調停委員等によって和解案が提案されます。和解が成立しなかった場合はあっせん案・調停案が提案されます。

 労働局によるあっせん、労働委員会によるあっせん、雇用環境・均等部(室)による調停、社労士会ADRによるあっせんの4つのADRを後ほど紹介させていただきますが、取り扱っている事件等に若干の相違があるだけで、制度としてはほぼ同様のものです。

主な良いと思われる点

  1. ほぼ1回で終わります
  2. 柔軟な解決が望めます
  3. 複数回開催することも可能です
  4. 当事者同士が顔を合わせません
  5. 無料です
  6. 非公開です
  7. あっせん委員等は労働問題に詳しい方です
  8. 後の手続に進んだ場合、心証形成に有利になることがあります

1.受付日からおおむねね1か月以内にあっせん・調停する日が決まり、原則1回(1日)の手続で終わります。

2.一方的な「勝った」「負けた」という解決ではなく、お互いが納得した話し合いでの解決を図ります。

3.1回の開催に限定されることなく、複雑な事件や複数回開催すれば解決が見込める時は複数回開催することも可能です。

4.当事者同士はお互いに顔を合わせたくない場合がほとんどかと思います。

5.金銭負担がありません(社労士会ADRは1,080円~10,800円必要 ※愛知県社労士会ADRは平成30年度末まで無料)。

6.傍聴されることはありません。

7.労働局のあっせん・調停委員、労働委員会のあっせん員、社労士会のあっせん委員等当事者同士の間に入って手続を進めてくれる方は、いずれも労働問題について詳しい方がなります。

8.相手方があっせん・調停に不参加だった場合、「労働者は紛争を解決すべく和解に向けて努力をしたが会社が誠実に対応せず、あっせん・調停に応じなかったため労働審判・通常訴訟の申立てに至った」といった感じで経緯を労働審判申立書・訴状に記載し、労働審判委員会・裁判官に対して有利な心証形成を試みることができます。

主な良くないと思われる点

  1. 強制力がありません
  2. 白か黒かといったはっきりとした解決にはなりづらいです
  3. 相手方が不参加だと打ち切り(中止)になります
  4. 受け付けてもらえない事件もあります

1.あっせん・調停案または和解案が提案されても和解しなければいけないわけではありません。

2.お互いの主張立証等について時間をかけて吟味して、どのような事実が有ったのか無かったのか、何が妥当か不当か、何が有効で何が無効か厳格に判断するというわけではなく、お互いの事情を踏まえての話し合いによる合意を目指すので、100か0か、白か黒かといったはっきりとした解決にはなりづらいです。

3.相手方が不参加であっても何の制裁もなく、何らかの強制的な効力もありません。

4.多人数での同時申し立て等かなり複雑になりそうな事件等は受け付けてもらえない場合もあります。

労働局によるあっせん

 各都道府県の労働局に設置された紛争調整委員会の委員の中から、事件ごとにあっせん委員が指名されます。委員は大学教授等の学識経験者の中から任命されています。

 あっせん委員は、「必要に応じ、参考人から意見を聴取し、又はこれらの者から意見書の提出を求め」ることができます。

 あっせん委員は、「紛争当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。」となっています。

 ※男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法に基づく事件の場合は、雇用環境・均等部(室)において、それぞれ機会均等調整会議・両立支援調停会議・均衡待遇調停会議による調停が行われます。(後述)また障害者雇用促進法に基づく事件の場合は、紛争調整委員会による調停が、雇用環境・均等部(室)における調停と同様に行われます。

労働委員会によるあっせん

 個別労働関係紛争だけでなく、集団的労使関係紛争である事件も取り扱えます。

 都道府県労働委員会会長により公益、労働者、使用者を代表する3名のあっせん員が指名されます。

雇用環境・均等部(室)による調停

 各都道府県の労働局に設置された紛争調整委員会の委員の中から、事件ごとに調停委員が指名されます。委員は大学教授等の学識経験者の中から任命されています。

 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法に基づく事件の場合は、雇用環境・均等部(室)において、それぞれ機会均等調整会議・両立支援調停会議・均衡待遇調停会議による調停が行われます。

 男女雇用機会均等法関連ですと、セクハラ・マタハラ・女性差別・女性に対する不利益取扱い等に関する事件が主な対象となります。育児・介護休業法関連ですと、育児・介護休業等を理由とする不利益取扱い・労働時間(時間外労働・深夜業・所定労働時間害労働)の制限等に関する事件が主な対象となります。パートタイム労働法関連ですと、通常の労働者との差別・通常の労働者への転換・通常の労働者との均衡待遇等に関する事件が主な対象となります。

 紛争調整「委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。」となっています。

 紛争調整「委員会は、調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動又は同項に規定する言動を行つたとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。」となっています。

 紛争調整「委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。」となっています。

社労士会ADRによるあっせん

 各都道府県社労士会に設置された社労士会労働紛争解決センターにおいて行われます(愛知県ですと名鉄神宮前駅から徒歩5分くらいです)。

 労働問題に精通した社労士があっせん委員となります。

 訴額1,200,000円以内の制限があり、解雇等の地位確認請求事件は扱えません。ただし、弁護士と共同受任しますと、訴額の制限は無くなります。

 ※愛知県社労士会労働紛争解決センターにおけるあっせんに関する費用は平成30年度末まで無料です。

 ※和解が成立した場合成立手数料がかかる場合があります。愛知県社労士会労働紛争解決センターですと、原則解決額の5%相当の金額となりますが、平成30年度末までは無料となっていますので、現在負担無しです。

簡易裁判所における手続・訴訟(共通)

主な良いと思われる点

  1. 設置されている数が多い

1.簡易裁判所は,全国に438か所あります。地方の中都市くらいにも多く設置されています。

主な良くないと思われる点

  1. 訴額1,400,000円以内に限られます
  2. 他の裁判所の判事(裁判官)と簡易裁判所の判事(裁判官)とは違いがあります

1.解雇等の地位確認請求事件は取り扱えないということになります。

2.あまり知られていませんが、簡易裁判所の判事は、裁判所において長く勤務していた事務官・書記官あるいは検察事務官から内部の登用試験を経てなっている方が多いです。簡裁以外の判事には司法試験に合格した方の中でもさらに優秀な方がなります。

 訴訟において裁判官の力量に期待している方は、第一審を選ぶ際に簡易裁判所ではなく地方裁判所を選ばれるとよいかと思います。

民事調停(司法型ADR)

 当事者それぞれの意見を別々に聞いて、話し合いで合意を形成し、適切な和解案を提案することにより解決を図ります。

 すでに裁判で争っている最中である・争った後である等の場合は受付・開催されません。

 時効の中断に関しては、民事調停が不成立となった場合に、不成立の通知を受けてから2週間以内に訴えを提起すれば、民事調停を申し立てた時に訴えの提起があったものとみなされます(民事調停を申し立てた時から時効が中断しているとみなされるということ)。

裁判官1名と調停委員2名以上とで構成される調停委員会によって手続が進められます。調停委員は法律資格者がなる場合もありますが、一般の方の中からも選ばれています。

おおむね3回前後の開催(4~5か月)での解決が図られます。

主な良いと思われる点

  1. 柔軟な解決が望めます
  2. 当事者同士が顔を合わせません
  3. 非公開です

1.一方的な「勝った」「負けた」という解決ではなく、お互いが納得した話し合いでの解決を図ります。

2.当事者同士はお互いに顔を合わせたくない場合がほとんどかと思います。

3.傍聴されることはありません。

主な良くないと思われる点

  1. 強制力がありません
  2. 白か黒かといったはっきりとした解決にはなりづらいです
  3. 使用者が不参加だと不成立(中止)になります
  4. 受け付けてもらえない場合もあります
  5. 調停委員は労働問題の専門家ではありません

1.和解案が提案されても和解しなければいけないわけではありません。

2.お互いの主張立証等について時間をかけて吟味して、どのような事実が有ったのか無かったのか、何が妥当か不当か、何が有効で何が無効か厳格に判断するというわけではなく、お互いの事情を踏まえての話し合いによる合意を目指すので、100か0か、白か黒かといったはっきりとした解決にはなりづらいです。

3.使用者が不参加であっても何の制裁もなく、何らかの強制的な効力もありません。

4.多人数での同時申し立て等かなり複雑になりそうな事件等は受け付けてもらえない場合もあります。

5.民事調停は労働問題以外にも民事の問題を幅広く扱っていますので、何らかの分野にはそこそこ詳しくて全体的にある程度幅広く見識のありそうな方が委員に多く選ばれています。労働問題に特別詳しい方ばかりではありません。

支払督促

 申し立てに基づき、裁判所書記官が相手方に対して支払いの命令を出してくれるものです。

主な良いと思われる点

  1. 書類の審査のみで手続できます

1.簡単な書類審査のみで迅速に行われます。証拠を提出する必要もありません。

主な良くないと思われる点

  1. 相手方が異議を出せば通常訴訟に自動的に移行します
  2. 移行した通常訴訟の第一審は相手方の住所地に近い簡易裁判所で行われます

1.相手方は簡単に異議を出すことが出来ます(2週間以内)。また、異議を申し立てる手続きや書式についての説明等が、支払督促を送付する際に同封されています。

2.相手方の住所地が遠方の場合、時間、労力、交通費等のデメリットが大きいです。

少額訴訟

簡易的な民事訴訟の手続です。

主な良いと思われる点

  1. 審理は1日で即日判決が出ます
  2. 訴える手続きが簡単です

1.何日も裁判所に通う必要がありません。

2.訴状の書き方は、穴埋めで完成できる定型の訴状に記入することもでき、通常訴訟に比べて簡単です。

主な良くないと思われる点

  1. 訴額60万円以内で、金銭の支払いを目的とすることに限定されます
  2. 拒否されたら利用できません
  3. 控訴・上告できません
  4. 複雑な事件には向いていません

1.解雇等の地位確認請求事件は取り扱えないということになります。

2.相手方が少額訴訟ではなく通常訴訟をしたいと申し出た場合、通常訴訟に移行します。

3.相手方が判決に納得いかない場合は、判決が出た日から2週間以内に異議を申し立てることができます。申し立て後、同じ簡易裁判所で通常訴訟の形で審理されます(異議審)が、異議審の判決に不服があっても控訴・上告はできません。

4.1日で判決が出るという性質上、複雑な事件や他人数での申し立て・大量の証拠を吟味しなくてはならないような事件等には向いていません。

通常訴訟(簡裁)

 民事訴訟の手続です。簡易裁判所で行われることを除けば、地方裁判所で行われる通常訴訟の第一審と基本的には同じですので、後述の「通常訴訟(地裁・高裁・最高裁)」をご覧ください。

労働審判

 ※労働審判の手続がどのように進行するかについては、「7.勝つための基礎知識3」で「補佐人業務」に関連して詳しく説明させていただきますのでご覧ください。

 地方裁判所で行われる手続です。

 3回以内の期日で審理が終結します。

 裁判官1名と労働審判委員2名で構成される労働審判委員会によって行われます。

 1回目の期日は、申し立てがされた日から40日以内に指定されます。

 相手方が出頭しなくても手続は進行します。

 手続が進行している間に労働審判委員会によって調停案が提案されます。調停が成立しなかった場合は審判が出されます。

 審判に対して異議がある場合、当事者は2週間以内に裁判所に異議の申し立てをすることができます。異議が申し立てられますと、審判はその効力を失い、労働審判が申し立てられた時点において、事件が属している地方裁判所に通常訴訟の訴えが提起されたものとみなされます。

主な良いと思われる点

  1. おおむね3~4か月ぐらいの期間で審理が終結します
  2. 非公開です

1.1、2回の期日で終わることが多いです。

2.原則傍聴されることはありません。

主な良くないと思われる点

  1. 当事者同士が同室で顔を合わせます
  2. 本人が口頭で話さなければいけない場合があります
  3. 代理人が限られます
  4. 複雑な事件には向きません
  5. 異議申し立て後も同じ裁判官に審理される場合があります

1.相手方と会いたくない場合でも原則同室となります。ただし、セクハラ事件等ですと、何らかの配慮を求めることはできます。

2.期日においては、労働審判委員会からの聞き取り、相手方の答弁書に対する反論・再反論や再々反論等を口頭で行います。また、代理人だけでなく、本人にも多くの質問がなされます。

3.原則弁護士以外は代理人となることができません。

4.他人数での申し立て等複雑な事件・審理に時間がかかる事件等は強制的に終了させられることがあります。

5.審判に異議を申し立てた場合、その地方裁判所での通常訴訟となりますが、担当する裁判官について何らかの制限はありませんので、労働審判を担当した裁判官が同じ事件について審判異議申し立て後の通常訴訟も担当することはあります。

通常訴訟(地裁・高裁・最高裁)

 ※通常訴訟の手続がどのように進行するかについては、「7.勝つための基礎知識3」で「補佐人業務」に関連して詳しく説明させていただきますのでご覧ください。

 裁判所で行われる手続です。

 第一審は地方裁判所で行われ、判決に不服がある場合は控訴することにより第二審が高等裁判所で行われます。第二審の判決に不服がある場合は上告することにより第三審が最高裁判所で行われます。第一審が簡易裁判所であった場合は第二審が地方裁判所、第三審が高等裁判所となります。

主な良いと思われる点

  1. 最終的な解決となります
  2. 納得がいく審理が期待できます
  3. どのような労働問題に関する事件でも取り扱えます

1.当事者が判決に不服がある場合は最高裁判所における第三審まで争えます。最高裁判所は憲法に定められる終審裁判所です。「勝っても負けてもここで終わり」です。

2.審理はとても細かいところまで慎重に厳格に行われます。

3.個別労働関係紛争に限らず集団的労使関係紛争も取り扱えますし、他の手続にはあまり向いていない複雑な事件等も全く問題なく取り扱えます。

主な良くないと思われる点

  1. 1年~2年くらいの長い審理期間です
  2. 厳格なルールがあります
  3. 控訴・上告した場合、遠方になりがちです
  4. 代理人が限られます</li>
  5. 公開です

1.おおむね、第一審において1年前後(解雇等の比較的審理に時間がかかる事件だと1年半前後)、第二審において半年前後の審理期間があります。

2.訴えの提起から訴訟手続の終了までの様々な過程において、書類の書式・内容・提出方法、証拠の内容・提出方法等々、非常に厳格にルールが定められています。

3.控訴した場合は高等裁判所、上告した場合は最高裁判所での審理となります。高等裁判所は全国に8か所、最高裁判所は東京の1か所のみです。

4.弁護士以外は代理人となることができません。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を代理人とすることも制度上は可能です。

5.原則誰でも傍聴することができます(審理の過程によっては公開ではない場合もあります)。

その他の手続

 その他の手続はどちらかというと、その手続単独で労働問題の解決を図るというよりは、他の手続をメインの解決方法としつつ、効果的に思われる時や限定的な時に使う手続です。

仮処分

 仮処分は、その名の通り仮の処分です。主に使われるのはどのような時かというと、不当解雇で争う時が多いです。申立ては裁判所に行い審理されます。

 解雇されたという事件ですと、会社からは給料が払われていません。給料が無いと生活に困ります。そのような時に生活に困らない範囲で、裁判所が相手方に対して、仮に給料として金銭を支払えと命令してくれるものです。給料が切り下げられた事件なども仮処分を検討することがあります。

 あくまでも「仮に」ですので、賃金仮払いの仮処分が認められても、その後通常訴訟で解雇有効と判断されますと、もらった金銭は返さなくてはいけません。また、生活に余裕が十分にあるようでしたら、「緊急の必要性が無い」という理由で申立てが却下されることもあります。

 緊急の必要性があるから仮処分を申し立てるわけですが、審理の期間としては早くて3か月、遅いと6か月前後くらいはかかりますので、「すぐにもらえる」と期待してはいけません。

仮差押

 仮差押は、相手方が自由に財産を処分できないように、裁判所に命令を出してもらうよう申し立てる手続です。通常訴訟前もしくは通常訴訟手続進行中に行います。

 相手方としては、自分の財産を自由に使えなくなるという大きな影響があるので、申し立てが認められるためには、雇用関係に基づいて生じた会社に対する債権(お金を払ってもらう権利)が存在することと相手方からお金を回収することができなくなるおそれがあることを、疎明(証明まではいかないが、ある程度明らかにすること)しなければいけません。

 使用者が財産を売り飛ばしたりお金を隠したりして逃げる等して、通常訴訟等で勝ってもお金を回収できないというような事態にならないようにするための手続です。

 この仮差押の手続では、保証金を法務局に供託(預ける)することが必要です(預けるだけですので、原則としては後で返ってきます)。金額としては、債権額のおよそ10%~20%くらいです。

 ただし、仮差押の手続をしただけでは、お金を強制的に回収することまではできません。例えば、通常訴訟で判決が出たとすると、この判決に基づいて裁判所に相手方の財産を差押する命令を出してもらうと、ようやく強制的にお金が回収できます。

先取特権に基づく差押

 雇用関係に基づいて生じた会社に対する債権(お金を払ってもらう権利)がある人は、会社の全部の財産に先取特権という権利を有します。この権利に基づいてお金を支払わない相手から、訴訟等しなくても強制的にお金を回収することができます。仮差押のような保証金もいりません。さらに、一般の優先権のない債権と競合しても優先されます。

 このようにとても大きなメリットがあるのに、一般的にはあまり知られていませんし、労働問題の解決方法として使われることもあまりありません。

 なぜかというと、この先取特権の実行が認められるためには、「担保権の存在を証する文書」(先取特権の存在を証明する文書)というものを裁判所に提出して、雇用関係に基づいて生じた会社に対する債権(お金を払ってもらう権利)があるということを厳格に証明しなければいけないからです。

 これがかなりの難関なので、この制度はあまり使われません。「担保権の存在を証する文書」というのがどのような文書か規定されていないので、雇用関係に基づいて生じた会社に対する債権(お金を払ってもらう権利)があることを裏付ける資料をできるだけありったけ出すしかありません。

 通常訴訟を経ずに通常訴訟で判決をもらうのとほぼ同じ効果を得られるという手続ですので、簡単には認められないどころか、むしろ通常訴訟より難しいです。

 先取特権の実行が認められますと、債権差押命令が出され強制的に債権を回収することができます。

 この先取特権に基づく差押の手続を利用を検討する場合として考えられるのは、「かなり固い証拠が多く揃っている」「通常訴訟をしていると手続進行中に財産を隠されるおそれが高い」「差押できるものが現在明らかにある」でしょうか。

次はこちらから:解決する人それぞれの特長、メリット及びデメリット

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