勝つための基礎知識1

 お客様が望まれる解決がどのようなものなのかは一人一人違いますが、ご自分で悩んだり考えてたりしていると、ある程度はだいたいこのような解決になることを自分は望んでいるんだなぁと感じてくると思います。

 あちこちのサイトを見たり、人によっては何件か労働相談に行ったりして、多くの情報を得ればなおさら感じられてくると思います。

 しかし、多くの情報を得ると、お客様が当初考えていた解決の方法や解決の結果が、いろいろな理由で「難しい・無理」という判断になることもあるかと思います(逆に「もっと望めるかもしれない」という判断になったりすることもあるかと思います)。

 例えば、自力救済はいけないこと・できないことであるということは少し調べればすぐにわかったと思いますし、労基署等の公的機関があなたの権利を守ってくれる実現してくれる(例えば、お金を回収してきてくれる)といったこともほぼ期待できないことなんだなぁとわかったと思います。

 しょうがないことではあるのですが、要するに、法令で許されている(決められている)範囲内でしか労働問題の解決は図れないということなんですよね。

 たとえ最高裁判所までいったとしても、できることは法令で許されている(決められている)範囲内と、ある程度限られているわけです。

 前ページまでで「どこで」解決するか「誰で」解決するか見てきましたが、ここで、法令で許されている(決められている)範囲内での、より望ましい労働問題の解決とは「どのような」解決なのか考えてみたいと思います。

労働問題の解決における二つの意味

 一口に労働問題の解決と言っても、私は大きく分けて次の表に挙げた二つの意味があると考えています。

  1. 何らかの形で紛争自体が終結すること
  2. 何らかの「利益」または「地位」を取り戻すこと及び何らかの損害を受けたことへの「補償」をしてもらうこと

 1の意味としては、和解なり判決なりといった、何らかの形で紛争自体が終結することです(制度的にはまだ紛争を継続させる余地はあっても、当事者同士がその時点での紛争の終結を望んでいる(これ以上争う気が無い)のであれば、一般的には紛争が終結したとしていいと思います)。

 2の意味としては、本来得ているはずだった何らかの「利益」または「地位」を取り戻すこと及び受ける理由のない何らかの損害を受けたことへの「補償」をしてもらうこと、です。

 本来得ているはずだった何らかの「利益」とは、例えば、未払いとなっていると考えられる給料や残業代です。

 本来得ているはずだった「地位」とは、例えば、解雇されていなければ「有る」と考えられる労働者としての地位であったり、降格されていなければ「有る」と考えられる「部長」「課長」「係長」といった上長の地位です。

 何らかの損害を受けたことへの「補償」とは、例えば、パワハラ行為をされて精神的損害を受けた場合の慰謝料です。

 1の意味での解決だけであれば、簡単に実現されます。

 解決の内容・条件にさえこだわらなければ、どんな悪い内容・条件でも、和解してしまってもいいし判決を受け入れ異議を申し出なければいいわけです。

 でも、これは何だか違う気がしませんか?

 例えば、未払いとなっていると考えられる残業代1,000,000円の支払いを求めて、ADRなり労働審判なりの手続を行ったとします。結果として、いくら分の請求が認められたかは気にしないのでしょうか。手続が終了すればそれだけでよいのでしょうか。

 労働問題の解決を図るということは、直接交渉であろうが、何らかの手続であろうが、原則として、まずこちら側から相手方に何らかを請求をするわけです。

 何らかの請求をしました、でも何一つ認められませんでした、では請求した意味が無いと思いませんか。

 裁判官等に自分の言いたいことを言うだけ、相手方に言いたいことを言うだけであれば、そのような思いで直接交渉なり何らかの手続を始めて終えればいいです。

 しかし、労働問題の解決を望むほとんどのお客様が求めるものは、そのようなただ紛争が終結しただけという形ではないですよね。

 2の意味での解決が、現実的には重要であり、2の意味での解決が図られた上で、1の意味で解決することで、やっと望んだ労働問題の解決になると思うのです。

 では、2の意味での解決という結果となるためには、どのような形での解決となればいいのでしょうか。

 判決で請求が認められたり、裁判所内にしろ外にしろ請求内容に近い内容で和解できれば、2の意味での解決となりますよね。

 では、判決で請求が認められたり、裁判所内にしろ外にしろ請求内容に近い内容で和解するためには、どうしたらよいのでしょうか。

 こちら側の言い分(請求)に理由がある(筋が通っている、勝っている)と、直接交渉においては相手方、手続においては裁判官等に判断して(感じて)もらえばいいのです。

労働問題の解決における二つの解決手段

 次に、直接交渉及び手続という二つの解決手段について、それぞれ考えてみます。

 解決の手段としての直接交渉は、望ましい内容・条件で和解できるかどうか相手方次第なところがかなり大きいです。過大かなと思える要求でも和解が成立することもあるし、逆に過小かなと思える要求でも聞く耳もたずといった感じであったりと。

 正直なところ、望ましい内容・条件で和解できるかどうかは交渉してみないとわからないのです。

 こちら側の言い分がいかに法律的に正当であろうが何的に正当であろうが、相手方はご自分のモノサシで判断してきますので、相手方がどのようなモノサシで考えているのかわからない以上交渉してみないとわからないということなんですよね。

 したがって、当サイトで一般論として、直接交渉についてはこれこれこうですよと説明するのは難しいので、直接交渉でどうすれば望ましい内容・条件で和解できるかは説明いたしません。

 解決の手段としての手続は、どのような考え方・しくみによってどのような判断がなされるのか、どのように進行するのか、これらが法律で定められています。

 当事者双方によって、どちらの言い分が法律的に正当であるかを適法に主張立証し合って、そのなされた主張立証の全過程を踏まえて、和解したり判決が出されます。

 これから、手続においてどのように法律的に正当であるかを適法に主張立証していくのか、わかりやすく言えば、手続においてどのように勝ちにいくのかについて、「勝つための基礎知識」として説明させていただきます。

あっせん・調停・労働審判・通常訴訟で勝つために知っておいてほしいこと

 個別労働関係紛争で望ましい解決を得るために「あっせん・調停」「労働審判」「通常訴訟」といった中立の第三者を間に入れて解決を図る手続を利用する場合は、大きく分けて次に挙げた二つのことについて、知っておいてほしいです。

 (1)手続において、どのような考え方・しくみによってどのような判断がなされるのか

 (2)手続において、どのように手続が進行するのか、手続の様々な場面でどのようなことに気を付ければいいのか

 このページでは「(1)手続において、どのような考え方・しくみによってどのような判断がなされるのか」について説明させていただきます。

 (2)については、次の「6.勝つための基礎知識2」「7.勝つための基礎知識3」で説明させていただきます。

 「あっせん・調停」「労働審判」「通常訴訟」それぞれの手続及び手続外で当事務所ができること、当事務所ができるそれぞれの業務の進め方・内容・費用についても「6.勝つための基礎知識2」「7.勝つための基礎知識3」で説明させていただきます。

 中立の第三者に自分の言い分を聞いてもらい認めてもらう、また中立の第三者に相手方の言い分を認めさせないためには、中立の第三者がどのような考え方・しくみによってどのような判断をするのか知っておいてほしいです。

 厳格さ厳密さに差はありますが、どの手続についても、これから説明させていただく考え方・しくみを原則として手続が始まり進み終わります。お客様ご自身も何となくでいいので理解しておいていただけると、労働相談・打ち合わせ等もよりスムーズに進むかなと思います。

 また、実際の「あっせん・調停」「労働審判」「通常訴訟」の場においては、当事者への質問、聞き取り及び尋問といった場面で、当事者が口頭で話をしなければなりません。

 これから説明させていただく内容を何となくでも理解していただいているのといないのでは、かなり差が出ますので、できればよく読んでいただきたいなと思います。

 少し長くなりますが、なるべくわかりやすく説明させていただきますので、ぜひご覧ください。

 以下の説明では主に訴訟での場合に使われる用語を使っていますが、あっせん・調停・労働審判の場合でも、使われる用語が違ってくるだけで、手続において同様の場面で使われる用語でしたら意味合い的には同様です。

 使われている用語の意味がよくわからないといった場合は「2.こんな用語出てきます」をご覧になってみてください。

 また、このページは、あくまでも、お客様が、個別労働関係紛争に関する手続の考え方・しくみをだいたい理解できる、労働相談・打ち合わせをする際にスムーズに進む、ようにという目的で最低限必要な範囲かつ平易な表現で記述していますので、網羅的かつ正確に知りたい方は、法律の条文を読むなり学者の本を何冊か読むなりしてください。

 このページのここから後の目次は以下の表となります。

  • 事例で考えてみましょう
  • 何を請求してもいいです
  • 何を請求しますか
  • 請求することの根拠はありますか
  • 事実が有ることは証明できますか
  • 相手方はどのように対応してくるのでしょうか1
  • 相手方はどのように対応してくるのでしょうか2
  • こちらも相手方に対応しましょう
  • 「請求の趣旨」の記載について補足します
  • どちらが証明しなければいけないのでしょうか
  • 主張しましょう
  • 主張責任と立証責任は同じ当事者が負うのでしょうか
  • その他には何が必要でしょうか
  • その他にも何か求めますか
  • 誰に対してどのような思いで作成・提出すべきものでしょうか
  • 判決まで待たなくてもいいです

事例で考えてみましょう

 手続における考え方・しくみを一つ一つ説明させていただいても、抽象的でわかりづらいものとなってしまいそうですので、このページではここから以下の事例を用いてできるだけ具体的に説明させていただます。

事例:訴訟を起こします

 堀部さんは平成26年4月1日に製塩業を営む赤穂商事に入社しました。期間の定めのない、いわゆる正規社員での採用です。労働時間は9:00から18:00で休憩は1時間、給料については、毎月250,000円で合意しました。また、給料の締日は20日、給料の支払日は25日です。労働契約書を交わし労働条件通知書ももらいました。

 堀部さんの仕事内容は、工場で出来上がった製品をトラックで近県の営業所へ輸送する仕事でした。

 平成27年4月から会社の業績が悪くなってきたようで、トラックで運ぶ製品の量も減り、社長の浅野さんから「もう少ししたらちゃんと払うからちょっとだけ待っててくれ、2~3か月ぐらいだけ我慢してくれ」と言われ、平成27年4月支給分(平成27年3月21日から平成27年4月20日まで働いた分の給料)から給料が毎月200,000円しか払われなくなりました。

 堀部さんは給料が全額払われなくなってからも以前と変わらず働いてきました。入社後から休日以外に休むことも無く交通事故を起こすことも無く頑張って働いてきましたが、昇進はありませんでした。

 一度平成30年4月1日に会社に今まで払われていない給料について払ってもらうように、配達証明を付けて内容証明郵便で請求しましたが、会社からはその請求分は払われず、相変わらず毎月200,000円しか払われませんでした。

 平成30年9月1日、ついに、堀部さんは会社に対し、訴訟を起こします。

何を請求してもいいです【処分権主義】

 堀部さんは平成30年9月1日に訴えを起こすわけですが、この日に訴えを起こさなければいけないわけではないです。他の日に訴えを起こしてもいいですし、そもそも訴えを起こしても起こさなくてもいいです。

 どのようなことを言っているのかというと、「訴えを起こすのは自由です」ということです。誰に強制されることもなく、自分が起こしたい時に訴訟を起こすことができます(裁判所の受付時間外等の問題は別として)。訴訟を起こすことを誰かに強制されることもありません。

 では、訴える内容はどうすればいいのでしょうか。この事例でどんな問題があるか考えると、「給料が一部払われていない」「昇進が無い」の二点でしょうか。

 どちらの内容で訴えるのか、それとも両方の内容で訴えるのか、と言われますと、「自由です」という答えになります。

 事例を読んでいただければ、何となく感じられるとは思いますが、どちらかというと、「給料が一部払われていない」の問題のほうが「何かおかしい、納得がいかない」という気がしますよね。

 「給料が一部払われていない」問題を解決するために訴えを起こすというのが、この事例ですと自然な感じ方かなと思います(「昇進が無い」問題については後述します)。

 しかし、「給料が一部払われていない」問題だけを訴えることが何となく自然だなぁと思っても、「昇進が無い」ことを訴えてはいけないということではないのですよね。自然かどうかということは抜きにして、「昇進が無い」ことを訴えてもいいのです。要するに、訴える内容は訴える人の「自由」ということです。

 このように「どのような内容でいつ訴えるか訴えないか」といったようなことは、当事者の自由となっています。この考え方を「処分権主義」といいます。

 また、一度訴えても、訴えた側はその訴えた請求を放棄する自由もありますし、相手方も訴えられた内容を認めるも認めないも自由となっています。これらも「処分権主義」という考え方からそのような扱いとなっています。

何を請求しますか【訴訟上の請求】

 では、訴えを起こすにあたって、結局どのような訴えをすればいいのでしょうか?この事例の場合ですと、欲しいのは、「払われていなかった給料」ですよね。権利でいうと、「(会社に対して、払われていなかった)給料を請求できる権利」が欲しいということになります。

 「給料を請求できる権利」のことを少し硬めの言い方で言うと「賃金請求権」と言います。

 この事例で裁判所にどのような訴えをするかというと、原告が被告に対して「賃金請求権」が有ることを認めてほしいという訴えをするということになります。

 このような「原告の被告に対する権利主張」と「裁判所に対する審判要求」を併せて「訴訟上の請求」といいます。

 しかし、「賃金請求権」が有ることを認めてほしいからといって、その文言の通り訴状に書けばよいとはなっていません。請求の仕方、書き方のルールみたいなものがあります。

 請求の仕方、書き方のルールとしては、簡単に言うと、いわゆる勝った場合における判決の主文(裁判所の結論のようなものです。詳しくは後述します。)に対応した書き方・ルールで書きます。

 お金を請求するタイプの訴え(給付の訴えといいます)で、いわゆる勝った場合における判決の主文の基本形は「被告は原告に対し、○○円を支払え」という形になります。

 では、この事例では裁判所に対して具体的にどのような内容の判決を出してほしいのかというと、「被告(赤穂商事)は原告(堀部さん)に対し、○○円を支払え」という内容の判決を出してほしいということになります。

 訴状では「請求の趣旨」という項目にして、「被告は原告に対し、○○円を支払え。との判決を求める。」というような書き方になります。

 わかりやすく言うと、原告が裁判所に判決で命じてもらいたい内容を「請求の趣旨」という項目で書いてくださいねということです。

 なお、あっせん・調停、労働審判においては「請求の趣旨」の項目は「申立の趣旨」という項目名で書きます。意味合いとしては同様のものです。

 ※「○○円を支払え」の部分について、具体的な金額はいくらと記載するかは、後述の「「請求の趣旨」の記載について補足します」で説明させていただきます。

請求することの根拠はありますか【要件事実】

 「賃金請求権」が有ることを認めてもらうためには、どのようにすればよいのでしょうか。訴状の請求の趣旨に「被告は原告に対し、○○円を支払え。との判決を求める。」と書いても、まだそれだけでは認めてはもらえません。

 結論から言ってしまうと、「根拠」が必要です。もう少し言うと、「根拠となる具体的な事実の主張」が必要です。

 「賃金請求権」が有ることの根拠となる事実は、「労働契約の成立に該当する事実」「賃金の定め」「就労の事実」の三つの事実です。

 これらの三つの事実はどれか一つや二つが有ればよいのではなく、全て揃って有ることにより、「賃金請求権」が有ることが認められます。「賃金請求権」が有ることが認められるためには、「労働契約の成立に該当する事実」の主張、「賃金の定め」の(事実の)主張、「就労の事実」の主張の三つの主張が全てが揃って必要だということです。

 「賃金請求権」が有ることの「要件」としてこれらの三つの事実が必要ということで、これらの三つの事実は、「要件事実」と呼ばれます。

p> なお、「要件事実」は請求するものによって変わってきます。

 請求の趣旨を認めてもらうためには、訴状にこの「要件事実」も記載しないといけません。

 訴状では「請求の原因」という項目にして、労働契約の成立に該当する事実については「平成26年4月1日に原告と被告は労働契約を締結した。」、賃金の定めについては「原告と被告は月額25万円の賃金額を合意した。」、就労の事実については、「請求に係る平成28年3月21日から平成30年9月30日までの所定労働日に就労した。(請求する期間の年月日の記載については後述します)」というような書き方になります。

 なお、あっせん・調停、労働審判においては「請求の原因」の項目は「申立の理由」という項目名で書きます。意味合いとしては同様のものです。

事実が有ることは証明できますか【証拠】

 「請求の原因」に要件事実を三つ書きましたが、まだそれだけでは「賃金請求権」が有ることを認めてもらえません。

 どうしてかというと、その三つの要件事実が本当に有るか無いかは、第三者(である裁判官)にはわからないからです。

 ではどうすればよいかというと、その三つの要件事実が有ることを「証明」すればいいということになります。

 何によって証明しましょうか。これも先に結論を見出しに書いてしまっていますが、「証拠」です。「証拠」によって、事実が有ることを証明する必要があります。

 証拠は、事実を証明するものであれば、原則としてどのようなものでもよいです。主な証拠は、文書の形の証拠(「書証」と言います)、第三者及び本人の証言という形の証拠(「人証」と言います)の二つです。

 この事例ですと、労働契約の成立に該当する事実についての証拠は、例えば、労働契約書、労働条件通知書、等です。

 賃金の定めについての証拠は、例えば、労働条件通知書、就業規則、等です。

 就労の事実についての証拠は、例えば、タイムカード、出勤簿、等です。

*ここで頭を一休み*

 だいぶ乱暴な例えになりますが、訴訟について、地理もわからない初心者の運転手がどこかまでドライブすることを例に考えてみましょう。

 運転手にとっては、どれくらい目的地まで遠いかわからない、無事着けるのか道がつながっているのかもわからない、道の難易度もわからない、道筋もわからない、全く知らない道を通っていきます。

 この事例の場合で、訴状を自動車、訴訟の一連の手続を道路としますと、目的地が「請求の趣旨に記載する内容」、目的地で楽しんだりすることが「「請求の趣旨に記載する内容」が実現されること」、運転手が「原告」、運転手の意思が「「賃金請求権」を認めてほしい」、ハンドル・アクセル・ブレーキの存在そのものが「要件事実」、ハンドル・アクセル・ブレーキの機能が「請求の原因に記載する内容」、タイヤが道路に接地するということが「訴状その他のものを裁判所に提出すること」みたいなものです。

 また、未来の超自動安全運転機能付き人工知能ロボットが「代理人(とても安全・上手で、目的地までの道筋や道の難易度、到着できる可能性の有無・程度もわかっていて教えてくれる)」みたいなものです。

 まぁ、自動車で道路を走る上で重要なものと同じようなそれぞれ重要なものなんだなぁくらいの理解でいいのですが。

 その他にも例えるなら…

 ガソリンは、うーん、「意味がある・検討する必要があると考えられる、主張できる事実と提出することができる証拠の量」みたいなものでしょうか。

 「裁判官・裁判所」は、うーんうーん、目的地の方向と運転手の車の位置はそれとなくアバウトに伝えてくれたりしなかったりするけど、そこまでの道案内をしてくれないナビみたいなものでしょうか。

 目的地に着いたら「着いたよ」と伝えてくれます。「裁判官・裁判所」が伝えてくれないと目的地に着いたかどうかすらわかりません。目的地で楽しめるようにはしてくれます。

 ただし、目的地に着く前に「この辺で楽しんだらどうですかね(楽しめる程度はケースバイケース)」とドライブの終了を勧められることもよくあります。

 例えるならそんな感じです。あくまでイメージとして「そんな感じなのねー」くらいの程度で参考に。

 さて、少し頭が休まったでしょうか。それとも逆に混乱してしまったでしょうか。

 もし混乱してしまったようでしたらこの項目の内容は全て忘れてもらっていいです。全然重要なことは書いてありませんので…

 コラム的な内容にしたかったのですが、コラムを書くって難しいものなのですね。書いてみてわかりました。

 ↓次からまた固い話に戻ります↓

相手方はどのように対応してくるのでしょうか1【答弁・認否】

 相手方は、訴状に書かれている内容に対して何らかの回答をしなければいけません。

 「請求の趣旨」に対する回答(答弁と言います)としては、全面的に原告の請求を認める場合は「請求の認諾」という形になり、訴訟がそこで終了します。

 通常は、すんなり認めるということはありませんので、「原告の請求を棄却する」と書いてきます。原告の請求を認めませんという意味合いです。ここはお約束の書き方という感じなので、特に気にしなくていいです。重要なのは次の「請求の原因」に対する回答です。

 「請求の原因」に対しては、記載されたそれぞれの事実について、認めるかどうか(認否と言います)を回答してきます。

 回答の種類としては、(1)認める(2)否認する(認めないという意味合いです)(3)知らない(不知)(4)認否しない(沈黙)、の四つがあります。

 (1)認める

 相手方の主張するその事実について、事実が有ることを認めるという主張です(自白すると言います)。どちらかがある事実について主張して、相手方からその事実について「自白」がありますと、双方がその事実について「有る」と認めているということなります。その場合はその事実は「有る」と裁判所に認定され、その事実について証明する必要はなくなります。

 この事例で相手方が、就労の事実について「認める」との認否をした場合は、就労の事実は「有る」と裁判所に認定され、就労の事実を証明する必要が無くなります。

 (2)否認する

 相手方の主張するその事実について、事実が無いという主張です。否認された事実については、その事実は「有るのか無いのか争う事実」となります。

 この事例で相手方が、労働契約の成立に該当する事実について、「否認する」との認否をした場合は、労働契約の成立に該当する事実は「有るのか無いのか争う事実」となります。

 また、ただ否認するだけでなく、相手方の主張と両立しない事実を積極的に持ち出してくる場合があります(積極否認と言います)。

 この事例ですと、例えば、「平成26年4月1日に原告と被告は請負契約を締結した。」と被告(赤穂商事)が主張してきた場合です(労働契約ではなく、請負契約であったという主張をしてきたということ)。

(3)知らない(不知)

 相手方の主張する事実について、事実を知らないという主張です。

 否認するとまでは特に根拠が無く言い切れないけれども、認めることはできないなどのときに使われます。効果としては否認すると同じ効果となります。

(4)認否しない(沈黙)

 相手方の主張する事実について、認否をしない場合(その事実が有るか無いかを争うことを明らかにしない場合)には、原則として、その事実を自白したものとみなされます。これは「擬制自白」と言います。

 ただし、訴訟過程全体における当事者の態度から、明らかにその事実について争っている場合には、擬制自白とはみなされません。

相手方はどのように対応してくるのでしょうか2【抗弁】

 認否とは別に、「抗弁」という回答をしてくる場合があります。

 抗弁とはどのようなものかというと、相手方の主張している事実とは異なり、かつ相手方の主張している事実と両立する事実で、相手方の主張している事実から発生する効果を排斥(障害または消滅)する事実のことです。

 何を言っているのかとてもわかりづらいと思いますので、この事例での場合で考えてみます。

 被告(赤穂商事)が「消滅時効を援用する」と主張してきたとします。

 前提知識として、時効は「援用」という「時効という制度を使いますよ」という主張をすることにより効力が発生します。また、賃金請求権は2年で時効により消滅し、賃金支払日ごとに別々に時効が進行します。

 この事例ですと、原告の請求の内容のうち、平成30年9月1日より2年以上前の平成28年4月25日支払い分から平成28年8月25日支払い分(5か月分で250,000円分)までは、それぞれ時効により(賃金請求権は消滅したので)、賃金請求権はありませんよということを被告は主張してきたということです、

 なお、時効による賃金請求権の消滅の要件事実は、「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」の二つです。

 原告は「労働契約の成立に該当する事実」「賃金の定め」「就労の事実」という三つの事実を主張していますが、被告の主張する「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」という二つの事実は、原告の主張する事実と異なる事実、かつ原告の主張する事実と両立する事実であり、原告の主張している事実から発生する効果(賃金請求権)を消滅させていますので(一部ですが)、「抗弁」ということになります。

 わかりやすく言うと、被告は「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」の二つの事実を抗弁として主張し、原告の「賃金請求権(の一部)」を消滅させようとしているわけです。

こちらも相手方に対応しましょう【再抗弁】

 被告から「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」の二つの事実が抗弁として主張され、賃金請求権(の一部)が時効により消滅してしまいそうですが、何か対抗することはできないでしょうか。

 ここも結論を先に言ってしまいますが、「抗弁」に対しては「再抗弁」という方法で対抗することができます。

 「再抗弁」はどのようなものかというと、「抗弁」と同様に、相手方の主張している事実とは異なり、かつ相手方の主張している事実と両立する事実で、相手方の主張している事実から発生する効果を排斥(障害または消滅)する事実のことです。

 またとてもわかりづらいと思いますので、この事例での場合で考えてみます。

 この場合の原告の再抗弁としては「催告した」と主張することが考えられます。

 前提知識として、「催告」とは何かというと「時効の進行を一時的に止めるための制度」です。「催告」には、「催告」してから6か月以内にADR・裁判所における手続等を行った場合に、「催告」をした時点で時効は中断されたものとして扱ってもらえるという効力があります。

 この事例ですと、「平成30年4月1日に会社に今まで払われていない給料について払ってもらうように、配達証明を付けて内容証明郵便で請求しました」という事実が「催告した」という事実となります。

 よって、被告が抗弁として「時効により消滅した」と主張してきた「(平成30年9月1日より2年以上前の)平成28年4月25日支払い分から平成28年8月25日支払い分(5か月分で250,000円分)の賃金請求権」については、時効期間が経過するより前に、催告により時効が一時的に中断されていますよと主張できるわけです(催告してから6か月以内に訴訟を起こした)。

 この場合の時効の一時的な中断の要件事実は「催告した」「催告から6か月以内に訴えを起こした」の二つです。

 被告は、抗弁として「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」という二つの事実を主張していますが、原告の主張する「催告した」「催告から6か月以内に訴えを起こした」の二つの事実は、被告の主張する事実と異なる事実、かつ被告の主張する事実と両立する事実であり、被告の主張している事実から発生する効果(時効による賃金請求権の消滅)の障害となっていますので、「再抗弁」ということになります。

 わかりやすく言うと、原告は「催告した」「催告から6か月以内に訴えを起こした」の二つの事実を再抗弁として主張し、被告の「時効による賃金請求権の消滅」を防ごうとしているというわけです。

 なお、「再抗弁」に対しては「再々抗弁」、「再々抗弁」に対しては「再々々抗弁」と、「抗弁」「再抗弁」の関係と同様に対抗していくことができます。

「請求の趣旨」の記載について補足します

 上記で説明させていただいた時効の問題があるので、原告としては、時効により賃金請求権が消滅してしまっていないと考えられる分について、訴訟において賃金請求権を認めてほしいということになります。

 この事例ですと、訴えを提起する時点で賃金請求権の時効である賃金支払日から2年間が経過していない未払い賃金は、平成28年9月25日支払い分から平成30年8月25日支払い分までの24か月分です。

 平成28年4月25日支払い分から平成28年8月25日支払い分までの5か月分については、本来であれば、賃金支払日から2年間が経過していますので、時効により賃金請求権が消滅してしまうところですが、平成30年4月1日に催告したことにより、時効が一時的に中断していますので、平成30年9月1日に訴えを起こすのであれば、まだ賃金請求権が消滅していません。

 したがって、賃金請求権があると考えられる未払い賃金は、平成28年4月25日支払い分から平成30年8月25日支払分までの計29か月分の未払い賃金です。一月あたり未払い賃金が50,000円ですので、29x50,000円で1,450,000円が賃金請求権があると考えられる未払い賃金の合計金額となります。

 よって、「請求の趣旨」に記載する賃金請求権を認めてほしい金額の合計は「145万円」となります。

 平成27年4月25日支払い分から平成28年3月25日支払い分までの12か月分の未払い賃金については、催告もしておらず時効が完成してしまっていますので、請求の趣旨に記載したとしても、相手方から「賃金請求権は時効により消滅しています」と抗弁され、その抗弁に対抗できないという展開になることがほぼ明らかと考えて、この事例では、あえて請求の趣旨に記載しなかったということです。

 なお、実際には支払が遅れたことによる「遅延損害金」を併せて請求することが通常ですが、説明が多くなり過ぎるので、「遅延損害金」に関することがらはここでは説明いたしません。

 また、この事例のような何らかの給付を求めるケースの訴えにおいては、「仮執行(の宣言を求める)」というものも請求の趣旨において記載することが通常ですが、さらに説明がかなり多くなってしまいますので、「仮執行」に関することがらもここでは説明いたしません。

どちらが証明しなければいけないのでしょうか【立証責任】

 「事実については、事実が有ることを証明しなければいけない」と前述しましたが、事実が有ることが証明されなかった場合はどうなるのでしょうか。

 答えとしては、この場合は、その事実は無いという認定がされます。

 では、原告被告がそれぞれ主張した事実について、誰がそれぞれの事実を証明しなければいけないのでしょうか。

 これは、難しいところがありまして、「この事実は原告(被告)が証明しなければいけません」と簡単には言えません。

 ただし、ルールがいくつかありまして、おおむねこの考え方に則って、誰が証明しなければいけないのか決められていきます。

 このページでは、基本的な考え方とこの事例においてはどちらがどの事実を証明しなければいけないのかという説明だけにさせていただきます。

基本的な考え方

(1)自分に有利となる事実と不利になる事実

 「各当事者は、自己に有利な法律効果が発生することを定めている法条の要件に該当する具体的事実について立証責任を負う」とされています。

 もう少しわかりやすく言うと「当事者それぞれは、認められれば自分に有利な結果となる具体的事実について立証責任を負う」でしょうか。

 立証責任という言葉が出てきましたが、立証責任とは「その事実が無い場合に受ける不利益及び負担」という意味合いであり、どちらの当事者が立証責任を負うかというルールを立証責任の分配といいます。

 要するに、ある事実について立証責任を負った側が、その事実について、証明しなければならないということになります。

 この(1)についての考え方としては、「認められれば原告(被告)に有利な結果となる事実については、原告(被告)にその事実があることを証明する責任があります」ということです。

 逆に言うと「認められれば原告(被告)に不利な結果となる事実については、被告(原告)にその事実があることを証明する責任があります」ということです。

 例えば、原告が何らかの権利が有ることを主張しているときには、原告はその何らかの権利が有ることを根拠づける事実を主張するだけでなく、原告がその事実が有ることを証明しなければいけなく、被告がその何らかの権利の発生を防いだり、その何らかの権利を消滅させたり、その何らかの権利を使わせないようにする効果のあることがらを主張したいならば、被告がそのようなことがらを根拠づける事実を主張するだけでなく、被告がその事実が有ることを証明しなければいけないということですね。

 この(1)の考え方が立証責任の分配を考える上で最も中心的な考え方となります。

(2)一般・通常な事実と例外な事実

 この考え方は、あることがらについて、一般・通常な事実を主張している当事者と例外な事実を主張している当事者がいるならば、例外的な事実を主張している当事者が立証責任を負うという考え方です。

 例えば、売買契約を交わしたら、それは通常有効な契約であり、錯誤(勘違い・誤りのようなもの)無効という例外を主張している当事者がいるならば、その例外を主張している当事者がその例外を根拠づける事実の主張をし、立証責任を負うという考え方です。

(3)積極的事実と消極的事実

 この考え方は、証明のしやすさから判断する考え方です。

 例えば、「お金を払ったという事実」と「お金を払っていないという事実」はどちらが証明しやすいかというと、通常「お金を払ったという事実」のほうが明らかに証明しやすいです。

 この考え方では、証明しやすい側に立証責任を負わせるのが公平である、という観点で立証責任が分配されます。

この事例においてはどちらがどの事実を証明しなければいけないのでしょうか

 まず、原告が「労働契約の成立に該当する事実」「賃金の定め」「就労の事実」の三つの事実の主張をしています。これらの三つの事実はそれぞれ原告に立証責任があります。

 次に、被告が「原告と被告は請負契約を締結した」と主張していますが、この主張についての要件事実は被告に立証責任があります。

 さらに、被告は「賃金請求権は時効により消滅した」という主張について「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」の二つの事実を主張していますが、この二つの事実は被告に立証責任があります。

 対して、原告は「時効は一時的に中断している」という主張について「催告した」「催告から6か月以内に訴えを起こした」の二つの事実を主張していますが、この二つの事実は原告に立証責任があります。

主張しましょう【弁論主義】

 「どのような内容でいつ訴えるか訴えないか」といったようなことは、当事者の自由となっていますと前述しましたが、どのような事実を主張するか、またどのような証拠を提出するかも同様に自由であり、原則として当事者の責任に任されます。

 実際には裁判所が「釈明権」という権利を使って、当事者に何らかの事実の主張や証拠の提出を促すことはありますが、当事者がそれに応じて事実の主張をしたり証拠を提出する義務まではありません。

 このような考え方を「弁論主義」と言いまして、下に挙げた三つの原則があります。

(1)当事者の主張しない事実については、裁判所は、それを判決の基礎とすることができない。

(2)当事者間に争いのない事実については、裁判所は、それをそのまま判決の基礎としなければならない。

(3)当事者が主張したが当事者間に争いがあるという事実については、裁判所が証拠によって認定する場合、事実認定の基礎となる証拠は、当事者が申し出たものに限定される。

 (1)の原則については、例えば、この事例において、被告が賃金請求権の消滅時効に関して「支払期から2年を経過したこと」「時効を援用したこと」の事実を主張しなかった場合、裁判所が消滅時効にかかっていることに気づいていても、判決においてこれを判断の基礎とすることはできません、ということです。

 (2)の原則については、例えば、この事例において、被告が原告の主張する「就労の事実について認めた」場合、裁判所がその就労の事実の存否に疑義を抱いていても、就労の事実は有るという認定に基づいて判決をしなければいけない、ということです。

 (3)の原則については、例えば、この事例において、被告が「原告被告間の契約は労働契約ではなく請負契約だった」と争った場合、裁判所がどちらの事実が有るか判断するための証拠は、裁判所が当事者双方が提出していない証拠の存在に気づいていたとしても、当事者双方が提出したものに限定されます、ということです。

 上記で説明させていただいたように、弁論主義の考え方においては、当事者が主張しなかった事実、提出しなかった証拠は「不明」ではなく、原則として「無いもの」として扱われますので、事実の主張及び証拠の提出をする際には、漏れが無いように十分に検討してから慎重に行います。

主張責任と立証責任は同じ当事者が負うのでしょうか

 例外的な場合や考え方もありますが、原則としては、主張責任と立証責任は同じ当事者に負わされると考えられています。

 何らかの主張をする場合には、その主張についての要件事実を主張する責任を負います。

 要件事実について主張責任を負うということは、その要件事実が訴訟手続の過程で主張されなかったときに、裁判所がその要件事実を判断の基礎とすることができないので、この要件事実に基づいた主張は認められないという不利益を受けることを意味し、また、要件事実について立証責任を負うということは、その要件事実が有ることを証明できなかったときに、その要件事実に基づいた主張が認められないという不利益を受けることを意味します。

 もう少しわかりやすくまとめると、「何らかの主張についての要件事実が、主張が無い場合にしろ、証明されない場合にしろ、その要件事実が有ると認められないならば、結果として何らかの主張が認められないという不利益を同じ当事者が受けるので、主張責任と立証責任は同じ当事者に負わされる」ということです。

その他には何が必要でしょうか【間接事実、評価根拠事実・評価障害事実】

 要件事実の主張とその立証だけで間違いなく訴訟において勝てそうならよいのですが、実際にはそうでもないので、多くの場合は、その他にも何らかの主張をしていくこととなります。

 いろいろ考えられますが、ここでは、間接事実、評価根拠事実・評価障害事実の簡単な説明だけにとどめます。

 (1)「間接事実」

 「間接事実」とは、どのような事実かといいますと、主要事実(間接事実から見て上位となる事実)が有ることを推認するのに役に立つ事実です。

 例えば、この事例で、賃金の合意について「合意していた賃金額がいくらか」争われたとすると、争われるのは平成28年4月25日支給分以降の期間における賃金額についてとなるのですが、平成28年4月25日支給分より前の期間、入社後から平成28年3月25日支給分までの期間における賃金額が、何らかの形で判明したとすると、その過去の期間の賃金額から争っている期間の賃金額を推認することができますので、その過去の期間の賃金額が間接事実となります。

 (2)「評価根拠事実」及び「評価障害事実」

 「評価根拠事実」及び「評価障害事実」とは、どのような事実でしょうか。

 この事例において、平成30年4月1日に内容証明郵便で催告をした後に、上司の大石さんからパワハラに該当すると考えられるような行為を受けて、平成30年5月20日で退職したという設定にして考えてみます。

 パワハラについても、裁判所に訴えることができます。

 訴える構成としては、会社が「安全配慮義務違反をしたから損害が発生した」という構成と、加害者(行為者:パワハラをした人)の「不法行為によって損害が発生した」という構成、もしくは両方を主張する構成があるのですが、それぞれがどのような構成か説明しようとすると、とても説明が長くなってしまうので、ここでは「不法行為によって損害が発生した」という構成を選択したとして考えてみます。この事例ですと被告は上司の大石さんとなります。

 「請求の趣旨」の内容としては、「退職による逸失利益及び慰謝料」が考えられます。

 「請求の趣旨を根拠づける事実」としては、以下に挙げた事実が必要となります。

  1. 労働契約の成立に該当する事実
  2. 労働契約の終了に該当する事実
  3. 原告が一定の権利あるいは保護権益を有すること
  4. 3の権利(保護権益)に対する被告の加害行為
  5. 4について被告に故意があること、または4について被告の過失があることを基礎づける事実
  6. 原告に損害が発生したこと及びその数額
  7. 4の加害行為と6の損害に因果関係があること

 「請求の趣旨を根拠づける事実」がたくさんあって、難しい言葉も並んでいるのですが、ここではそれぞれについては説明いたしません。

 考えていただきたいところは、「5.4について被告に故意があること、または4について被告の過失があることを基礎づける事実」となります。

 この5に該当する事実が「評価根拠事実」と言われる事実となります。

 これだけの説明ではさっぱりわかりませんので、もう少し説明させていただきます。

 「故意」と「過失」については、具体的にどのような故意または過失なのかが、請求の趣旨を認めるかどうかに関わってきます。

 「故意」と「過失」というものは抽象的な概念です。具体的にどのような故意が有るのかまたは過失が有るのかは、故意または過失が「有る」だけの主張ではわかりませんので、その故意または過失が有るという「評価を根拠づける事実」が必要です。

 その「評価を根拠づける事実」が「評価根拠事実」と言われる事実です(文字通りですが)。

 この事例においては、被告のパワハラに該当すると考えられるような行為における故意または過失について、「有る」という主張だけでなく、その故意または過失が具体的にどのような故意または過失なのかを基礎づける「評価根拠事実」を主張してくださいね、ということになります。

 「評価障害事実」は、「評価根拠事実」と両立する事実で「評価根拠事実」から発生する効果を排斥(障害または消滅)する事実です。要するに「評価根拠事実」の抗弁となる事実です。

その他にも何か求めますか【処分権主義】

 かなり前のほうで触れましたが、この事例ですと昇進について訴えてもいいのです(処分権主義)。

 昇進についてなぜ訴えなかったかというと、この事例では賃金請求権と違って、根拠が無かったので、訴えなかったということになります。

 昇進については、法律上で「昇進権」という権利は有りません。また会社が昇進させなければならないといった「昇進させる義務」も法律上は有りません。要するに、昇進についてどのように規定してどのように運用しても会社の自由ということです(その昇進の規定や運用が客観的に合理的か合理的でないかという問題等は出てきますが)。

 したがって、この事例においても被告(赤穂商事)の規定において何ら昇進について定められていなければ、休日以外に病欠等の休みはなく働いていようが交通事故を一度も起こしていなかろうが、昇進を請求できる権利も無ければ、会社が昇進させる義務も有りません。

 まとめると、昇進について訴えても、自分に権利が無く会社に義務も無いのなら、どうせ認められないから訴えても意味ないよね、ということで訴えなかったということです。

 ただし、会社の規定に何らかの昇進の定めがあるようでしたら、話が変わってきます。

 例えば、被告(赤穂商事)の就業規則に「入社後2年間無欠勤無事故だった者は係長に昇進とし、係長手当を月に20,000円支給する」と書いてあったとしましょう(ちょっと非現実的ですいませんが)。

 就業規則の内容は労働者と使用者の労働契約の内容となりますので、平成26年4月1日に入社してから2年間無欠勤無事故だったのにもかかわらず、平成28年4月1日以降に係長に昇進させず係長手当も支給されなかったとしたら、労働契約の内容が履行されていないということになります。

 そうなりますと、係長としての地位確認請求と未払いとなっていると考えられる係長手当の請求をする余地も出てきます。

 根拠として、「労働契約の成立に該当する事実」と「昇進の定め(入社後2年間無欠勤無事故だった者は係長に昇進とし、係長手当を月に20,000円支給する)」と「入社後2年間無欠勤無事故である事実」と「被告が労働契約上の地位を否定して争っている事実」という事実の主張が考えられます。

誰に対してどのような思いで作成・提出すべきものでしょうか

 訴状等裁判所に提出する書類・証拠について、ここまで説明してきたことがらは、原則としては当事者が思ったように自由に書いたり提出したりしていいことです。

 訴訟を起こす目的が、自分の言いたいことを言うだけ、相手方に言いたいことを言うだけであれば、そのような思いで自由に書いたり提出すればいいのですが、違いますよね。

 このページの冒頭でも書きましたが、ほとんどのお客様が望まれる解決は、何らかの形で紛争自体が終結することだけではなくて、何らかの「利益」または「地位」を取り戻すこと及び何らかの損害を受けたことへの「補償」をしてもらうことですよね。

 したがって、その目的が達成されるように、訴状等裁判所に提出する書類・証拠を準備・作成しなければいけません。

 訴状等裁判所に提出する書類・証拠は「誰に」見てもらいたいものでしょうか。

 答えを先に言ってしまいますが、「裁判官」ですよね。

 お客様が求めるものは「請求の趣旨」(原告が裁判所に判決で命じてもらいたい内容)を認めてほしいということであり、その「請求の趣旨」を認めるか認めないか(有るか無いか)の判断をするのが裁判官です。

 したがって、訴状等裁判所に提出する書類・証拠はすべて、「請求の趣旨」を認めてもらうように、裁判官を説得するためのものだと思ってもらっていいです。

 ということは、具体的にどのような事に気をつけて、訴状等裁判所に提出する書類・証拠を作成・提出すればよいのでしょうか。

 当事務所の方針でもありますが「わかりやすく」が基本です。裁判官も人間ですから「わかりやすく」が何よりです。読んでいてわかりづらかったり、読む気が無くなってくるような書き方は避けていきます。以下、わかりやすくするために心掛けることをいくつか挙げてみました。

 (1)その業界の人しか知らないような専門用語等には説明をつける。

 (2)事実を時系列で捉えていけたり、論理が順々になるように並べる。

 (3)感情的な内容、必要の無い事実等は記載せず、長くなり過ぎないようにする。

 などを考慮しつつ、全体的に「わかりやすく」を心掛けて、お客様の望む判決を裁判官が出してくれるための説得材料にという考えで、訴状等裁判所に提出する書類・証拠を作成・提出していきます。

判決まで待たなくてもいいです【和解】

 今まで何度か「和解」という言葉を使ってきましたが、「和解」そのものについては説明していなかったので、ここで説明させていただきます。ここでの説明は、裁判所における手続及びあっせん・調停の場で行われる和解についての説明です。

 なお、労働審判においては、和解のことを同じ意味で調停といいます。例えば、訴訟で「和解が成立した」と、労働審判で「調停が成立した」は同じ意味です。

和解とは何か

 裁判所における手続においては、双方主張も証拠も出尽くし、争点やその他の事情等についても十分に整理し終えると審理終了とされ、判決(労働審判では審判)が出されます。

 判決(審判)では、当事者双方の意思とは無関係に、強制的に裁判所の判断によって労働事件の解決が図られます。

 判決(審判)に対して和解は、(和解以前に裁判所からの指導・説得等があったにせよ)当事者双方の合意に基づいて、判決(審判)が出される前に労働事件の解決が図られます。

 「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第7回)」(2017年7月21日公表)によると、2016年中に終了した地方裁判所における民事第一審労働事件では和解率は61.5%(労働審判では72.4%)となっており、多くの労働事件が和解で解決となっています。

 また、あっせん・調停においても裁判所における手続と同様に、双方主張も証拠も出尽くし、争点やその他の事情等についても十分に整理し終えると審理終了とされますが、判決(審判)にあたるものは出されず、最終的な和解案の提示といえる、あっせん・調停案の提示がされます。

和解の効力

 和解は、裁判所が「和解調書」を作成して行われます。この和解調書は、判決が確定したことと同じ効力がありますので、和解の成立によって訴訟は終了します。

 また、労働審判の場合は、同様に「労働審判手続期日調書」が作成され、この労働審判手続期日調書に調停の内容が記載されますと、審判が確定したことと同じ効力がありますので、調停の成立によって労働審判は終了します。

 ただし、あっせん・調停における和解は、和解成立によって手続が終了する点では同じですが、通常訴訟及び労働審判と同様といえるまでの効力は無く、当事者が和解内容(例えば、被申立人は申立人に〇月〇日までに○○円払え)を履行しなくても、強制執行(差押)することができません。

和解するメリット

(1)柔軟な解決が図れます

 判決においては、原則として訴状に「請求の趣旨」として記載された内容について認めるか認めないかといった結論しか出されません。

 例えば解雇事件ですと、「請求の趣旨」としては、現在「○○会社の労働者としての労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」というような内容になりますので、判決の結論としては、今そのような地位に有るか無いかのどちらかの判決しか出ません。実際には復職できるかできないかのどちらかということになります。白か黒か、100か0かということですね。

 和解ですと、「(復職は認めないけども、その代わりに)解決金として2,000,000円払え」というような内容で和解することもできます。

 また、和解においては、その他の、例えば、支払う金銭について分割払いにする・社会保険に関する適用について等、当事者同士で合意した内容なども盛り込むことができます。

(2)早期の解決が図れます

 判決が出されるまでには、相手方の反論具合や証拠の多さ等にもよりますが、長い期間がかかります。

 お客様にとって早く解決することが大きな意味を持つ場合や、判決によって出されそうな内容とほぼ変わらないような内容で和解できそうな場合などは、早期に和解して解決とする選択もよいと思います。

(3)利益無しとなることは防げるかもしれません

 審理が進んで行くと、事件によっては勝ち目が薄い(負けそう)と考えられることもあります。そのようなときは、判決(審判)までいってしまうと、完全敗北(請求は何ひとつ認められず、何の利益も得られない)となることも十分にありえます。

 どうにももうひっくり返せそうにないと判断できるようでしたら、多少低めの条件でも和解できそうなら和解してしまったほうが、判決(審判)を待つより得かもしれません。

和解するデメリット

 和解した時点で訴訟終了となりますので、判決が出されることはありません。当事者双方が主張した事実であったり提出した証拠であったり等について、ひとつひとつを裁判官がどのように評価・判断・認定等して、結論としてどのような判決が出されたのかを知ることはできません。

 ご自分の言い分、相手方の言い分について、裁判官にいわゆる「お裁き」を下してほしい、裁いてほしいというお気持ちが強いようでしたら、和解せずに判決が出されるまで手続を続行したほうがいいです。

和解はどのように行われるのか

 「和解期日」という和解を試みるための期日が設定されることがありまして、その和解期日では通常法廷は使われず、当事者双方が、裁判官の待つ普通の小部屋に交互に案内されます。

 当事者それぞれについて、裁判官からどれくらいまで譲歩できるか等、提案・説得されたり、逆にどのような内容なら和解に応じられそうか等聞かれたりします。

 和解できそうな流れと判断されたら、和解期日が連続して設定されることもあります。

和解はいつ行われるのか

 和解勧告されるタイミングとして多いのは、当事者双方の主張及び書類の証拠が出尽くして、第三者の証人・当事者本人の尋問が始まる前あたりですが、その他にも第1回口頭弁論期日でされることもありますし、第2回以降の口頭弁論期日や弁論準備期日においてもされます。判決を待つばかりとなった段階でされることもよくあります。和解期日が設定されることもよくあります。

 どのような事件でも必ずしも和解勧告がなされるというわけではありませんが(和解できそうにない、一方的な内容等ですと、なされないこともある)、決して珍しいことではなく、通常はどこかの場面で和解勧告されることが多いです。

 ひとつ重要な点としては、裁判官から和解勧告で提案された内容は、その時点における裁判官の心証をある程度は反映しているものとも考えられる点です。

 比較的手続の早い時点で提案された内容は、今後の期日においてどのように主張立証等していくのかの参考にし、比較的手続の遅い時点で提案された内容は、判決においてその提案に近い内容の判決が出される可能性が高まっているかもしれないので、控訴・上告といった形になる場合等含めて和解するべきかどうか考える、ということになります。

次はこちらから:「あっせん・調停」において、どのように手続が進行するのか、手続の様々な場面でどのようなことに気を付ければいいのか

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